名古屋高等裁判所 昭和35年(ネ)28号 判決 1960年8月29日
控訴人 国
訴訟代理人 林倫正 外六名
被控訴人 菅精一
主文
原判決中控訴人勝訴の部分を除きその余を次のとおり変更する。
被控訴人は控訴人に対し金六一四万円およびこれに対する昭和三三年六月一三日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。
控訴人その余の請求を棄却する。
訴訟費は第一、二審とも全部被控訴人の負担とする。
この判決は控訴人勝訴の部分に限り仮りに執行することができる。
事実
控訴代理人は「原判決中控訴人勝訴の部分を除きその余を取り消す。被控訴人は被告に対し六、一四一、〇〇〇円およびこれに対する昭和三三年六月一三日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述、提出援用の証拠、書証の認否は、控訴代理人において、本訴請求原因第一項を
一、被控訴人は半田郵便局庶務会計課長として勤勤中、昭和二七年七月ごろより昭和三三年六月一二日ごろまでの間にその業務上保管にかかる収入印紙額面一万円(七三七枚)、千円(三九二〇枚)五百円(一八六二枚)のもの合計一二、二二一、〇〇〇円を別紙第一明細書(原判決添付)のとおりその売却代金を自己の用途に費消する意思を以つてほしいままに訴外長坂冬次ほか三名に売却して横領した、この不法行為により控訴人国は本来右収入印紙を右訴外人らに売渡すことによつて右額面相当の金員を得ることができたにもかかわらず、これができなくなり右収入印紙額面相当額の損害を蒙つた。
と訂正すると述べ
証拠<省略>
ほかは原判決事実摘示記載のとおりであるからこれを引用する。
理由
成立に争のない甲第一ないし第一一号証、同第一四ないし第二一号証、当時証人長坂冬次、後藤敏郎、泰真、壁谷智、天野定、村田達彦、竹内利秋らの各証言を総合し、成立に争のない乙第一号証(刑事判決謄本)の一部を参酌すると
被控訴人は半田郵便局庶務会計課長として勤務中昭和二七年七月ごろより昭和三三年六月一二日ごろまでの間に原判決書添付別紙第一明細書のように(ただし39番の五百円収入印紙の枚数を一二枚と同額の金額を一六万六千円と、最終行の合計枚数五百円の分を一八六〇枚と、合計金額を一二、二二〇、〇〇〇円と訂正する)その業務上保管にかかる収入印紙額面一万円(七三七枚)、千円(三九二〇枚)、五百円(一八六〇枚)のもの合計額面金額にして一二、二二〇、〇〇〇円をその売却代金を自己の用途に費消する意思で勝手に訴外長坂冬次ほか三名らに売却して横領したこと、このため控訴人国は本来なれば右収入印紙売捌によつて前記額面相当の金員の収入を得ることができたのにかかわらず被控訴人の不法行為によりこれを失い同額の損害を受けたこと。
が認められる。
被控訴人は一万円の収入印紙八二一枚を横領したに過ぎず、かつその内二一三枚は還付されているから六〇八枚のみの損害である旨主張し、前記乙第一号証によると、被控訴人に対する放火業務上横領被告事件の第一審判決において横領の点については僅かに一万円の収入印紙の分八二一枚についてのみ有罪の認定を受けたのみで他は無罪となり、同事件の押収物件中証第二一号の一万円の収入印紙二一三枚が被害者還付となつていることがわかるが、刑事事件と民事事件との性質上の差異からも、また控訴人が当審においてその請求原因を変更した結果から考えても右判決の結果のみからして、被控訴人の主張を認めて前段の認定を覆すことはできず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。(なお一万円の収入印紙については九五〇枚の横領より前記二一三枚を控除して七三七枚となる)
そして、被控訴人において弁証をなした主張、立証もなく、また支払能力の有無はその業務に消長を来すわけではないから、被控訴人は控訴人に対し金一二、二二〇、〇〇〇円(原審認定の金六〇八万円のほか六一四万円)およびこれに対する不法行為ありたる日以後の昭和三三年六月一三日以降完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、控訴人の本訴請求は右の限度において正当として認容すべきもその余(金一、〇〇〇円およびその損害金)は失当であるからこれを棄却すべく、これと見解を異にし金六〇八万円およびその損害金のみを認容した原判決は不当であるからその控訴人敗訴の部分を取り消し、民事訴訟法第九六条、第八九条、第九二条但書、第一九六条に則り主文のとおり判決する。
(裁判官 坂本収二 西川力一 渡辺門偉男)